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力を合わせれば、暮らしの脱炭素は実現できる〜日本総研によるチャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム設立 & みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト立上発表会 レポート〜 第2部
第2部
前半は、日本総合研究所のグリーン・マーケティング・ラボ長である佐々木努が、CCNC活動の柱の1つである共創型実証実験「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクトについてご紹介。後半では、暮らしの脱炭素のための取り組みについて、参画企業の代表などゲスト5名の方によって、プレゼンテーションとトークセッションが行われました。
誕生の背景…生活者に届く、やわらかいコミュニケーションを
佐々木まず、こちら(下図)のイラストをご覧いただきたいのですが、「ニャートラル」「ギャートラル」「ゲンコツさん」というキャラクターです。私たちのような会社が「脱炭素していきたい」と言っても、日々の暮らしを変えていくことは非常に難しいと思っていて、そこで「みんなで減CO2(ゲンコツ)」というプロジェクトを立ち上げました。キャラクターを通じていろいろな方々とコミュニケーションを図っていきたいと思っています。
何かのきっかけで、雪だるま式に行動変容がはじまる可能性が…
佐々木日本総研が生活者向けのアンケート調査をとったところ、「環境に配慮した商品が欲しいですか」と尋ねると76%が欲しいと回答しています。そして同じくらいの方々が、「店頭でそういった特集の棚があるといいね、気づかないので誘導してくれたら気づいたのに」と答えているのです。生活者の皆さんは、何かきっかけを求めているのではないか。そこにアプローチすることによって、脱炭素社会というものに一歩日本を前に進めていくことができるのではないか。何かが変わると、雪だるま式に前に進んでいくことができるのではないかなという考えが、私たちの活動の背景にはあります。
企業の減CO2(ゲンコツ)と、暮らしの減CO2(ゲンコツ)の間をつなぐ
佐々木「みんなで減CO2(ゲンコツ)」は企業と暮らしの間を繋いでぐるぐる回すための取り組みになります。キーワードは3つあって、①買い物②教育③それらに介在するお金。この3つが、企業の取り組みと生活者をつなぐための要素だと私たちは考えています。
2024年1月から店舗での実証実験がスタート。
佐々木具体的には、第1部でもお話が出ましたが、2024年1月に店舗での実証を考えています。大阪大学の松村先生の“仕掛学”の知見をお借りしながら、普段は脱炭素に興味のない方も足を止めてみる、棚に触れてみる、というきっかけを作るための取り組みや、暮らしの中でCO2を出してしまう無駄な行動を、モンスターのような絵に描いてみることで、自分たちの行動に気づいてみようという活動と、効果の検証も行います。
触れて、学んで気づいて、自分ゴト化
現在開発中の「減CO2(ゲンコツ)アプリ」では、クイズで脱炭素のことを面白く学べて、各企業さんの取り組みもきちんと紹介するコンテンツを展開していきます。さらに開発した様々なコンテンツをアレンジしながら、自治体さんなどと脱炭素の普及啓発活動をさせていただこうと思っています。すでに大阪府門真市さん、高知県さん、エイチ・ツー・オー リテイリングさん等からお声がけをいただいていています。これからも引き続きご注目をいただければありがたいです。
トークセッション 「暮らしにおける脱炭素の取り組みとは?」
社会システム領域 脱炭素対策評価研究室 主観研究員
執行役員・コーポレートコミュニケーション戦略部 部長
執行役員ユーグレナヘルスケアカンパニーCEO
取締役 COO
リサーチコンサルティング部門 グリーン・マーケティング・ラボ ラボ長
佐々木ここからはゲストの方々をお迎えして、「暮らしにおける脱炭素の取り組み」をテーマにプレゼンテーションしていただき、その後、質問やコメントを頂戴いたします。まずお1人目は、「暮らしと脱炭素」に関する研究では日本の第一人者であり、私の大学の研究室の先輩でもある金森さんにお願いします。
生活におけるCO2削減に向けた課題
日本の温室効果ガス排出量データをみると、2013年が最大で、それ以降少しずつ減少し続けています。しかし2030年と2050年の削減目標を達成するためには、今の減り方では足りません。もっともっと加速させていきたいのに、難しい状況です。
分野ごとの分類で「家庭部門」をみると、2021年度では全体の14.7%。小さな割合のようですが、ここでは住宅内のエネルギー消費に伴うCO2排出量しかカウントしていません。その他の、車に乗る、何かサービスを購入するなど、私たちの生活に伴う排出と考えられるものを全て合わせてみると、実際は日本の排出量の約6割にも及ぶという推計結果もあります。つまり、ライフスタイルを見直すことは、温室効果ガスの削減に非常に重要です。自宅でできること、移動でできること、買い物でできることもあります。気候変動問題や温室効果ガスの排出量削減を、まず自分ゴトとして関心を持っていただき、次に自分には何ができるのか知っていただくことが課題だと考えています。
佐々木金森さん、ありがとうございました。金森さんのお話に関連して、アスエネの岩田さんにお聞きしたいのですが、アスエネさんは企業のCO2削減の見える化をされていらっしゃいますが、暮らしの中でCO2を減らすことについては、どのように見ていますか?
岩田現状では、例えばエアコンのように比較的ライフサイクルの長い製品の場合、製品の使用に伴うCO2は下がったものの、廃棄に伴うCO2は増えてしまったといった矛盾が、生活の中ではよくあるかもしれません。CCNCの実証では、原材料調達から廃棄に至るまでフットプリントを通じてライフサイクルを評価することで、本当にCO2の排出量が下がっているのかどうか知ることができると思うので、楽しみにしています。
佐々木ありがとうございます。暮らしの中でCO2をどうやって減らすかということについては、CCNCでこれから企業さまといろいろな議論をしていきながら、きちんと科学的に丁寧にやっていけたらと思っています。では次にアサヒグループジャパン株式会社の高森志文さん、お願いいたします。企業としての取り組みをご紹介いただけますでしょうか。
小さな取り組みを、一つひとつ積み上げている現状
アサヒグループには、ビール、飲料、それからアサヒグループ食品という食品会社もありまして、単価が安くて日本の隅々までお子さんから高齢者の方まで手に取っていただける商品を扱っているというところが特徴です。原料の調達から製造工程、物流など様々な段階でCO2削減策を実施していて、工場は全て再生可能エネルギーの導入を完了しております。商品としては最後の、食べたり飲んだり捨てたりといったところまで持続可能な形にしていかないといけないということも痛感しています。
販売においては、「CO2を食べる自販機」というものも展開を始めました。CO2を吸収するだけではまだプロセスの途中なので、さらに吸収したものをどうやって循環させていくかが今の課題です。商品そのものを通じたアプローチとしては、「ミンティア」の容器の一部が、プラスチックを11%削減したものに変わっていっています。スーパードライの6本セットを包んでいた紙を上部だけに減らす、ペットボトルのラベルを小さくするなど、本当に小さな取り組みですが、一つひとつ積み上げていっているのが現状です。
佐々木高森さん、ありがとうございました。「食べる自販機」をニュースで見た時は、すごくインパクトがありました。同じメーカーの立場で、ユーグレナの福本さんに伺いたいのですが、ユーグレナは、サステナビリティや脱炭素、カーボンニュートラルといった取り組みについて世の中にコミュニケーションを図ろうという時に、どのような工夫をされていますか?
福本ユーグレナ社は、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を企業フィロソフィーとして掲げ、サステナブルな世の中を目指して事業を進めています。今大事にしているのが、オンライン上でのコミュニティづくりです。私たちの思いや、取り組みを伝えて、共感してくださる方やファンの方など身近なところから1人ひとり地道に広げています。サステナブルな未来を一緒に作っていく仲間を広げ、消費者にもつながっていくといいなと思っています。
佐々木福本さん、ありがとうございます。引き続いて取り組みをご紹介いただけますか。
サステナブルでないことは、やらない!という信念
ユーグレナ社のことをご存知ない方もいらっしゃると思うのですが、2005年に東京大学発ベンチャーとして設立され、世界で初めて微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養に成功した会社です。創業者の出雲が、18歳の時に訪れたバングラデシュで、必要な栄養素が足りず栄養失調となっている子どもたちを目の当たりにした時の栄養問題を解決したいという想いが創業のきっかけです。「人と地球を健康にすること」をパーパスとして、サステナブルじゃないことはやらないという強い信念を持っています。栄養豊富なユーグレナなどを活用したヘルスケア事業、ユーグレナや使用済み食用油等のバイオマスを原料にしたバイオ燃料事業、新規領域のアグリテック遺伝子解析、ソーシャルビジネスなど全て、この信念に基づいて、実行しています。また、サステナブルな取り組みを加速する仕組みとして、18歳以下の未来世代の意見を取り入れたいと「Chief Future Officer(CFO) 」を設置して、経営に対して提言してもらっています。なかなか厳しい意見も出るのですが、提言を受けて既存の飲料用ペットボトル商品を全廃するなど、私たちも真剣に取り組んでいます。
佐々木福本さん、ありがとうございました。アサヒの高森さんに伺いたいのですが、企業のフィロソフィーと考えが近い方にだけでなく、広く商品を届けてコミュニケーションをとるのは難しいと思うのですが、ユーザーとのコミュニケーションという文脈で何か示唆をいただけますか?
高森社内にいろいろ議論がありまして、今まさに検討している段階です。CO2を減らしているからいい商品でしょ、という押し付け的な打ち出し方では選ばれないのではないかという不安もありますし、ブランディングとして似合う商品なのかどうか。商品によってどのように言って、どのように届けるか、難しいです。逆にこのコンソーシアムで何かヒントをいただけるのではないかと期待しております。
佐々木ありがとうございます。ぜひ一緒に検討していきたいなと思っています。それでは最後にアスエネの岩田さんより、プレゼンテーションをお願いします。
カーボンフットプリントでCO2排出量が低いものを選ぶことができ、良いサイクルを回せるように
私たちはCO2の見える化のクラウドサービス「アスエネ」と、サプライチェーンのSG評価ができるクラウド、カーボンクレジット排出権の取引場と、3つの事業を行なっています。日本の非常に大きい動きとしては、コーポレートガバナンスコードの改訂がありまして、プライム市場に上場している企業様は、サステナビリティの情報開示が実質義務化になっています。国際会計基準では、ISSBのサステナビリティの開示基準が決まり、2025年もしくは2026年にスコープ3と言われる、自社だけでなくサプライチェーンも含めた事業活動全体のCO2排出量の開示義務が出てきたところも大きな動きです。
日本では年間に約11億トンのCO2が排出されているのですが、家庭部門は15%と言われますが、先ほどの金森さんのお話にあったように、間接部も含めると6割弱になり、これは注目しないといけない事実だと思います。「みんなで減CO2プロジェクト」では1商品あたりのCO2がどれだけ出ているかカーボンフットプリントを算定します。経産省と環境省さんの「カーボンフットプリントガイドライン」も策定されました。カーボンフットプリントの低いものを消費者が選ぶことで、カーボンニュートラルに近づくといった、好循環のサイクルを回していこうと政府も含め、目指しています。
佐々木岩田さん、ありがとうございます。最後に金森さんから、カーボンフットプリントについて何か言葉をいただけますか。
金森商品は環境に良ければそれでいいのかと言えば、そうではないと私は思っています。私も環境の研究者である前に、一生活者です。やっぱり人生や生活は豊かで楽しくありたい。商品(やサービス)を選ぶ際の基準の1つに、カーボンフットプリントも加えていただきたいです。それが当たり前の社会になって人々の意識に根付いていけば、様々な企業にも、社会にも大きな影響を与えると信じています。
佐々木ありがとうございました。「暮らしにおける脱炭素」という話題で議論してまいりましたので、最後に今日皆様が、「暮らしの脱炭素を進めることってこういうことじゃないか」と感じられたことを一言で書いていただけますか。
閉会の挨拶
気象庁の発表によりますと、7月6日以降最高気温が30度を超える真夏日が、今日でもう60日連続になりました。やはり我々がどうしても見つめ直さなくてはいけないのは、CO2の増加によってひどくなる気候変動問題です。私たちの取り組みでは、生活者の方たちを起点にして、取り巻く小売・流通メーカーの方たち、自治体の方々、エネルギー会社の方たちが、機会を作りながら、行動変容のトリガーを引いていくことができればと思っております。今回参画してくださるメーカーの皆様、流通の皆様には、ファーストペンギンとしてチャレンジをしてくださっていることに対して、心より敬意を表したいと思います。これから皆様と一緒に、実証しながら、社会実装に向けて活動を昇華して参りたいと思っております。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございました。